石笛
・玉石混交の石笛情報
ヒスイや勾玉も同様ですが、石笛をネット検索すると玉石混交の情報が入り乱れており、中には首を傾げたくなるような眉唾的な情報も見受けられます。
眉唾情報・・・少なくとも私が感じる・・・の多くは、独自の調査や検証も無しの個人的な思い入れを書いているのかもしれません。
また、人づてに聞く「ある人から聞いた話しだけど・・・」といった類いも、根拠や出典が不明確な情報が多いように思います。
例えば「石笛は持ち主以外が吹くと霊力が失われる」という話しを何人かから聞きました。
一体、どこの誰が言い始めたのでしょう?
人工的に作った石笛なら製作者によって試し吹きされているハズですし、天然石笛も拾った人が試し吹きしているハズなので、これでは石笛の持ち主本人が作ったり拾ったりしなくてはいけなくなります。
それと失われる霊力とは何であるのか?
石笛自体に霊力が無論あるわけではなく、霊力云々はしかるべき演奏者がしかるべき時に演奏してこそ発生するものだと思いますし、誰が吹いても霊力が生まれる、というお気軽なものではないと思います。
私はその情報の出典を知りませんし、石笛研究者に聞いても一個人の価値観が独り歩きして広まった情報ではないだろうか?との見解です。
確かに一部の神道では今でも神事に石笛が使用されており、その場合は祭器ですから神職以外の人が無闇に触れることも吹くことも許されることは無いと思います。
神職は入手したばかりの石笛を吹く前にはお浄めをするそうですし、遊び半分の軽い気持ちで石笛を吹くということも無いでしょう。
しかし神職以外で石笛を吹いてみたいという人の場合、個人的な祓い清めに使うのか、癒しを求めて・・・照れ臭い表現ですが・・・吹いてみたいのか、楽器として楽しみたいのかでその関わり方も様々なはずですので、誰かの個人的な想いが流布した情報のように思えてなりません。
また石笛は能管の元祖と、まことしやかに信じている人も多いようですが、これは三島由紀夫の小説にそんなことが書かれていて広まったらしいのです。
能管は渡来楽器のはずですが・・・。
有名な某神社が古伝の御神宝とする石笛が、実は近年に業者から購入したものであるという裏情報も私は知っています。
しかも誰でも簡単に拾える某所の天然モノ石笛を、信じられない高額で購入させられているのです。
石笛やヒスイをとりまく世界には、神秘的イメージを煽る宣伝文句で溢れていますので、眉唾情報の検証も含めてこの項を書いてみました。
・各地の縄文遺跡からヒスイ製石笛が出土している?
私が最も疑問に思うのが、「青森の三内丸山遺跡を始めとして各地の縄文遺跡からヒスイ製石笛が出土している」といった類いの情報です。
それぞれ文章が似通っているので誰かの文章を孫引きしているのでしょう。
そんな場合の検証には、遺跡の当該教育委員会や埋蔵文化財センターに問合せてみるに限ります。
するとそのような出土品は無いという返答が大部分です。
私の独自調査によると、ネット情報の多くはヒスイ製大珠を石笛と独断しているらしいのです。
問合せた考古学者達も同じ見解をしていました。
上の写真は、三内丸山遺跡出土のヒスイ大珠です。
ヒスイ製大珠は直径4o前後の貫通孔が開けられていますが、その直径だと某神道教団に伝わるとされている横吹きという特殊な吹き方でないと音は出ないと思われます。
「石笛仙人」守山鷲声さんすらも長年稽古しても横吹きは難しいと言っていたくらい特殊な演奏法です。
石笛であればわざわざ孔を貫通させなくてもいいのです。
貫通孔を開けた石笛も出土していますが、その場合はもっと吹き易い形状に加工されていますし、音階の変化を作る工夫と思われる貫通孔と直交する小孔も開けられていたりします。
また大珠は決して石笛として吹き易い形状をしていません。
・縄文の石笛の音・・・出土品レプリカを吹いてみる
ただし、縄文前期(六千〜五千年前)の青森県の上尾駮遺跡には、ヒスイ製の石笛と推定される出土品があります。
またヒスイ製ではないですが、同じく青森の富ノ沢遺跡と野家遺跡からは泥岩質製の石笛、熊本県宇土市の轟貝塚からは黒色石灰岩製の石笛と推測される出土品もあります。
ヒスイ製以外の人工石笛も、縄文前期(六千〜五千年前)の出土品で、私も考古学者が記録した実測図を取り寄せて確認しました。
これらは石笛として吹き易そうな形状に加工されており、ヒスイ大珠の孔より大きい直径8o前後の貫通孔が開けられて、実際に吹いて笛として機能するかどうかの検証実験もされています。
そのような加工技術が縄文前期(六千〜五千年前)にはあった筈なのに、中期(五千〜四千年前)の三内丸山遺跡出土のヒスイ大珠のように、わざわざ吹き難い石笛を作るものでしょうか?
下の写真は轟貝塚出土石笛ですが、私もレプリカを作って吹いてみました。
直径8oの貫通孔中央に、4oの小孔が直交貫通しているので、吹き方の他にも小孔を指で押さえれば音が変化させられるオカリナ状の石笛です。
倍音が美しい不思議な音が響きました。
縄文石笛の音はユーチューブで聞くことができます。演奏しているのは、石笛仙人こと守山鷲声さんです。五千年以上も前の縄文の響きをお愉しみ下さい。
・音が出れば楽器と断言していいのか?
・・・有孔鍔付き土器太鼓説にみる断定の危なさ
話し変わりますが、有孔鍔付き土器という縄文土器があります。
口縁部が平らで円周に沿って小孔があり、その下に鍔状の出っ張りがあります。
この土器の用途について二通りの説があります。
- 1.酒作りの容器説
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土器の中にニワトコの種が残っていたので、ワインを作った器という説。
小孔は発酵ガスを抜くためという推測がされています。
しかし、わざわざガス抜きの小孔を開けなくてもドブロクは作れるし、鍔状のでっぱりをどう説明するのか?
- 2.太鼓説
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口縁部に皮を張って、小孔に木釘を差込んで皮を固定したという説。
著名な音楽家が、有孔鍔付き土器のレプリカを作って太鼓として立派に機能したから太鼓だと断言して演奏活動をしています。
インドには素焼きの土器に被せた太鼓皮を革紐で引っ張って固定する太鼓がありますが、わざわざ壊れやすい口縁部に小孔を開けたり鍔を付けなくても太鼓が作れることをどう説明するのか聞いてみたいところです。
また叩いたら音がしたから太鼓と断言できるのであれば、私は頬っぺたを叩いて音階が作れて簡単な曲・・・「笑点のテーマ」「いい湯だな」「オブディオブラダ」等・・・なら演奏できますので、私の頬っぺたは太鼓ということになるでしょう。
百歩譲って仮に大珠を吹けたにしても、石笛と断言するのはいかがなものでしょう?
音楽センスと遊び心さえあれば、何でも楽器になってしまうので、音が出れば楽器と即断するには危険が伴います。
・石笛って何?・・・縄文人の精神世界を垣間見る「第二の道具」
石笛は縄文時代前期くらいから出土する笛と推測される孔の開いた石です。
多くは泥岩や砂岩などの柔らかい自然石に穿孔貝が巣穴にするために孔を開けた石であったり、ガスが抜けて孔が開いた火山岩、鉱物が風化して母岩から一部が抜け落ちて孔が開いた石などで、全国で三十例ほどが報告されているようです。
ただし前述のように人工的に孔を開けた石笛も若干の出土例があります。
石笛の用途は、孔に斜めに息を吹き込めば笛のような音がしますので笛と推定されています。
本当に笛として使っていたのかは縄文人に聞くより他はありませんが、一部神道のご神事に今でも使われていますので、祭器用の笛であったと推定されているのです。
このような生活に必要な道具ではない出土品を「第二の道具」と表現したのが、縄文の御意見番として著名であり、国学院大学名誉教授で新潟県立博物館館長の小林達雄先生です。
縄文人は、石笛を何に使ったのか?何を想って吹いたのか?
シノゴノと頭で考えるより、実際に石笛を吹いて縄文の響きに耳を澄ませようではありませんか。
これぞ縄文時間!
・楽器としての石笛・・・倍音を愉しむ
石笛と吹き方次第では1オクターブ前後の音域が出るので、技術さえあれば演奏も可能です。
演奏とまではいかなくても、小鳥のさえずりを真似て「ピピピピピッ」という断続音を出すと、ちゃんと応えてくれる小鳥もいます。
なにより良い石笛は、心地の良い倍音が出ますので吹くだけでも愉しめます。
倍音とは音の振幅が倍になって発生した共鳴音であり、技術があれば倍音を意図的にある程度のコントロールすることも可能です。
西洋楽器の多くはサワリ音やビビリ音を排除して、演奏者が純粋な音に専念できる工夫がされて発達してきました。
しかし、西洋文化圏以外の楽器や素朴な民族楽器などは、古来からサワリ音やビビリ音を排除せずに発達した楽器、または意図的に出しやすく工夫されている楽器が多いですので、近代西洋式の音楽理論で理解しようとすると面白くありません。
そういった楽器類は音楽理論抜きで音色自体を愉しむことのできる楽器であり、倍音が心地よく、また即興演奏にも向きます。
石笛もその代表でしょう。
近年、倍音の出やすい楽器を趣味にする人が増えています。
例えばディジュリドゥー、口琴、ジャンベといった素朴な民族楽器などです。
私の知人には、口琴を演奏すると「ぶっ飛んで」しまい、時を忘れて長時間演奏してしまうというディープなマニアが少なからずいます。
彼らは倍音ドランカー、倍音フリークと自嘲しますが、石笛も一時間以上も飽きずに演奏してしまう友人がいます。
その友人こそ、「石笛倶楽部」http://www.jtw.zaq.ne.jp/yamabiko888/00-club.htmlというサイトを運営している和歌山市在住の守山鷲声さん。
鷲声さんの本職は竹笛の職人さんですが、木魂(コダマ)研究家としても著名であり、和歌山産の天然モノ石笛の採集と演奏、その普及を真摯にされていますので、私は畏敬の念を持って石笛仙人と呼ばせて頂いています。
演奏法でお悩みの方や興味ある方は「石笛倶楽部」のサイトをご覧ください。
・天然石笛・・・天然モノは海で拾えば只!
前述の通り、石笛には天然モノと人工モノの2種類があります。
どちらも縄文遺跡から出土しますが、その大多数は天然石笛です。
天然モノは糸魚川なら筒石海岸で泥岩製が拾えますが、脆い石質のためにすぐに砕けてしまいます。
有名なのは神奈川県三浦半島から七ヶ浜にかけての湘南海岸東寄りでしょう。
ネットではヒスイ製の人工石笛が売られていますが、高価で手が出ないという声をよく聞きます。
お金の無い人や、石笛初心者は海岸に行って自分で拾えばいいのです。
色々拾って吹いてみれば、石笛の善し悪しも理解できるでしょう。
この写真は、「石笛仙人」守山鷲声さん愛用の石笛のほんの一部です。
鷲声さんは気に入った石笛に銘を付けて、音色や音域などの詳細なデータを記録しています。
・人工石笛・・・天然モノと人工モノはどちらが良いか?
天然モノは海岸で拾うことができますが、当然ながら孔の開いた石ならなんでもいい訳ではありませんので、良い音がする石笛とは滅多に出会えません。
天然モノでは滅多に出会うことのできない良品石笛を簡単に入手できるのが人工の石笛・・・のハズ。
ところが、ある石笛作りをしている人が聞き捨てならないことを言っていました。
彼は石笛の吹き口の縁を撫ぜると手が切れるくらいに鋭いエッジに仕上げるのが自慢と言っていましたが、鋭過ぎる孔の縁だとビビリ音が多い「雑味の多い耳をつんざくような不快な音色」になってしまうことがあります。
ですから私は吹き口の微調整をしているくらいですし、プロ、アマ問わず笛作りをする人にとって吹き口の微調整こそが秘伝的な腕の見せ所なのです。
彼はホイッスルのように鋭い音色が良い音という固定観念があるのだと思います。
購入者の好みが合えば良い訳ですが、澄んだ音やまろやかな音色が好きな人もいます。
石笛製作者と石笛所有者の価値観や好みは様々です。
そんな訳で、結論を言えば天然モノと人工モノの差は個人的な好みが反映されるので、単純な比較はできないというのが本当の所です。
・石笛作りのひと工夫・・・究極の石笛を目指して
ヒスイ製石笛はヒスイに孔を開けたら完成とすると思われがちですが、良い石笛を作るにはそれなりの技術と経験、知識が必要です。
石笛の孔直径や深さのデータ表記が無いネット情報の場合は、石笛の音色が推測できませんので、購入するかどうかの判断基準は見た目と値段の折合いだけになってしまいます。
初心者ならそれでもいいでしょうが、中級者以上になるとどんな音なのか気になるところ。
ですから私個人としては、自然に孔が開いた天然石笛と違って人為で石笛を作るのですから、縄文人もしていたように吹き易い工夫も必要でしょうし、音色などの詳細情報の開示も必要だと考えています。
下の写真は、私と石笛仙人の鷲声さんが共同開発した斜口タイプの石笛です。
天然石笛の大部分は孔が斜めに開いていますが、人工石笛は孔開け作業のやり易さから垂直に孔が開けられることが多いので、人工的に斜孔を作ってみたのです。
吹き口が斜孔になっていると、吹く角度によって高音と低音の二通りの音が出せるというメリットがあります。
孔の鋭角方面から吹くと高音域が出やすく、鈍角方面から吹くと低音域が出やすいので、一つの石笛が二種類の音色と、広い音域を持つという訳です。
ただし、斜孔タイプの石笛は中級者以上にとって音域の広い石笛と言えますが、天然石笛に慣れていない初心者には吹き難いと感じる人もいるかもしれません。
・孔直径と深さの微妙な関係
また孔と孔の深さの相関性も試作品を作って調べました。
四種類の孔直径を基本として、0.5p刻みに深く開けた試作品を沢山作って、吹き易さや音色と音域、倍音の心地よさ、キー等のデータを整理したのです。
試作品を友人のプロの演奏家や、まったくの初心者に吹いて貰って、吹き易さや音色の好みなどの意見も参考にしました。
主観的な判断基準ですが、音色による「離れていく感じ」「招く感じ」といった感覚的なデータも取りました。
石笛愛好者から、「祓い清めに使用したいので昇魂用石笛が欲しい」といった類いの依頼があるからです。
音色もソムリエみたいに「涼やかな朝の澄んだ空気」とか「雑味多く幽霊が出てきそう」とかの感覚的表現も試みました。
これらのことで分かったのは、音色に対する感覚的表現は各人である程度の一致はみたものの、上級者と初心者が最上とする石笛は必ずしも一致しないということであったりして、調べれば調べるほど石笛は奥深いということです。
・石笛が鳴らせない人へのワンポイントアドバイス
・・・子供時代の遊びがモノをいう
私のブログに石笛の吹き方が難しいという問合せがたまにあります。
「プロの音楽家が吹けるようになるまで半年かかった」といった話も聞きました。
でも私が初めて石笛を吹いたのはかれこれ二十年ほど前ですが、音は簡単に出ました。
子供の頃に鉛筆サックや一升瓶を吹いて遊んだ経験のある人ならそれほど難しくはありません。
逆に言えば鉛筆サックや一升瓶が吹けない人には石笛は吹けませんので、高価な石笛を買う前に手近かな空洞容器を片っ端から吹いてみることをお勧めします。
形状ごとに吹くコツが違いますから、そんな経験の積み重ねが石笛上達の近道なのです。
因みにペットボトルは形状的に鳴り難いです。
ある石笛製作者が、誰でも簡単に吹ける石笛のウンチクを披露していましたが、そんな訳で誰でも簡単に吹ける石笛は存在しません。
私の作った縄文石笛のレプリカを吹く石笛仙人こと守山鷲声さん。
鷲声さんの正しい姿勢に感銘を受けましたので、ご参考にどうぞ。
鷲声さんの口と石笛の角度や距離のアップ。吹いているのは私がプレゼントした守山鷲声モデル石笛。
・ヒスイ製石笛は音がいいのか?・・・素材によって変わる石笛の音色
ヒスイは硬度6もある硬い石なので、他の石に較べて良い音がするという思い込みをしている人も多いようです。
ある石笛製作者も、ヒスイ原石のなかでも結晶が緻密な高級品じゃないと音が悪いと言っていました。
確かにヒスイの石笛は硬質な音が出ます。
しかし作りによってはどんな素材の石笛も耳障りなビビリ音や耳をつんざくキツイ音がしますので、それが良い音かどうかは別問題です。
硬質な音色=良い音ではありません。
硬度が高ければ良いなら、ダイヤモンドや鋼鉄製の石笛?が最も良い音色ということになります。
不純物が多くて粗い結晶のヒスイ原石でも、作りによっては素晴らしい音色と広い音域の石笛を作ることが可能ですし、不純物が少なく緻密な結晶のヒスイ石笛と吹き比べた場合、その音色を聞き分けられる人は少ないでしょう。
ヒスイ石笛の対極にあるのが、一升瓶の音色です。
一升瓶を吹けばガラスらしい、くぐもっているけども柔らかい音がしますし、技術さえあれば第五倍音まで出るそうなので結構遊べます。
ボォォォォゥーッという低音から、ピィィィィ〜ッという高音まで様々な音が出ます。
音遊びという観点から言えば、一升瓶はヒスイ石笛よりずっと愉しい楽器です。
要はどんな素材でも、作り手と吹き手次第で良い音が出る石笛かどうかが決まるのです。