石器・その他

 

・石器

縄文の技術革新・・・本格的な木工が可能となった磨製石器の出現

旧石器時代の打製石器の用途は調理や狩猟、土耕道具と推測されますが、縄文時代には石器を滑らかに研磨した磨製石器が出現します。

縄文時代が新石器時代と呼ばれる由縁です。

磨製石器の用途は木工用と推測されていますから、縄文時代は本格的な木工が始まった時代といえます。

ただし旧石器時代の遺跡からは刃先だけ研磨された「局部磨製石器」が出土することもありますが、二万五千年前以降には途絶えてしまいますので、用途は木工とは断定されておらず使用目的は諸説あります。

 

また縄文時代にヒスイが各地に運ばれたのは、丸木舟による水上交通が発達していたからと別項で書きましたが、丸木舟を作るには磨製石器が必需品です。

丸木舟があれば人や物の流通が飛躍的に広範囲になりますから、縄文文化が栄えた背景には磨製石器の存在が欠かせないのです。

以下に丸木舟作りに必要な石器の説明をします。

 

1.石斧

石斧で樹を伐採して大まかな加工をします。

石斧

石を加工して石器を作っただけでは道具として不十分です。

柄を付けて始めて道具になり得ます。

この写真の石斧は弥生時代の「乳棒状石器と直柄」のレプリカです。

斧身は糸魚川で「黒蛇紋」と呼ばれている緻密な蛇紋岩製で、柄は新潟地方で昔から斧や鉈の柄として使用されていたイタヤカエデ製ですが、出土石斧の柄はカエデ属は少数で、ユズリハ属が多いようです。

 

直柄(ナオエ)とは、バット状の柄に石斧を嵌め込む孔を開けて差込む方式の柄で、他には組み込み式の膝柄(ヒザエ)や、ソケット式があります。

石斧も時代や地域によって形状や素材も様々です。

 

鉄斧で樹を伐るとザックザックとかコーンコーンという音がしますが、石斧はゴツンゴツンという鈍い音がして、樹を伐るというより、むしり削っていく感じです。

石斧は鉄斧の1/4くらいの仕事効率とされています。

 

2.チョウナ(手斧・横斧)

丸木舟の内部を掘ったり、材木の表面を平らに削る道具。

手斧

鉄が使用される時代になってからチョウナは用途別に細分化して、臼作りで木を掘り込むために使う「手繰ジョンナ・テグリ」、大工さんが材木を平らに均す「大工チョンナ」へと発展していきます。

この写真のチョウナは、透緑閃石製の「定角式石器」という短冊型の石器と、カエデ製の膝柄の組合せです。

 

3.石ノミ

石ノミ

細かい加工は石ノミが使われたと思います。

この写真のノミは、透閃石製の「定角式石器」と、左側が桜製、右側が赤樫製の膝柄方式の柄にしてありますが、残念ながら現在のところ石ノミの柄は出土していませんので、柄の形は私が考えたものです。

この石ノミは素晴らしくよく切れますので、体験会で子供たちに獣肉を切らせるとみんなビックリしますし、もっと鋭角に研げばヒゲ剃りもできるでしょう。

流石に糸魚川産の透閃石は石器素材として優秀です。

こんな道具類で丸木舟は作られたようです。

 

・縄文人も唸った糸魚川産蛇紋岩類の磨製石器

糸魚川の蛇紋岩類(透閃石・透緑閃石等)は、磨製石器素材としてとても優秀らしかったのです。

その証拠に糸魚川産の蛇紋岩類で作られた石器は、三万年前の旧石器時代の長野県の野尻湖からも出土しており、ナウマン象ハンターたちは直線距離で四十キロ、山間地迂回距離で推定百キロも離れた姫川水系の松川まで透閃石を拾いに来ていたと推測されていますし、縄文時代に入っても糸魚川産蛇紋岩類は、ヒスイ以上に広範囲に各地まで運ばれて珍重されていたようです。

 

実に野尻湖から出土する局部磨製石器の八割が姫川水系の松川産らしき透閃石であり、先端が欠けては研いでを繰り返して小さくなるまで大事に使っていたようです。

 

因みに宝石質の透閃石が軟玉ヒスイ(ネフライト)で、最近までパプアニューギニアの高原地帯では、台湾産ネフライト製の石斧が使われていたようです。

また野尻湖出土の局部磨製石器の残り二割が緑色岩製で、この石も姫川水系ではよく拾えます。

拙宅から出土した磨製石器も緑色岩製で、下の写真の右側がその実物で左側がレプリカです。

緑色岩出土石器

 

・縄文人も喜んだ糸魚川産砂岩の砥石

糸魚川の縄文人達は、ヒスイの加工以前から磨製石器を作っていたために硬い石材の加工技術が発達していたらしく、それが故に高度6もの硬いヒスイを加工することが可能であったと推測されています。

ヒスイ加工遺跡からは、ヒスイとは比較にならない程の大量の磨製石器とその未成品も出土していることから、ヒスイも含めた石材加工が地場産業になっていたと推測されています 。

 

それら石器加工を支えたのが、糸魚川の来馬層群の砂岩製砥石。

砂岩であればなんでもいいという訳ではなく、糸魚川の縄文人は来馬層群の砂岩を選んで使っており、その石質は石英を含み硬くて緻密です。

硬い石材を砥げる来馬層群の砂岩があったからこそ、石器やヒスイが加工できたのです。

 

・糸魚川は原始人のミネラル・パラダイスやぁ!

石器に使える良質の蛇紋岩類や砥石になる砂岩は、市内の河原や海岸で拾えます。

蛇紋岩類と大雑把な表現をしているのは、かっての考古学では鉱物的な視点からの調査が不十分で、出土した石器を蛇紋岩と一括りに報告していたのですが、近年に野尻湖ナウマン象博物館の中村由克先生により出土品の再調査がなされたところ、これまで蛇紋岩と報告されてきた石器の多くは、実は透閃石であったと報告されてから事情が変わってきました。

ヒスイも透閃石も蛇紋岩塊中で生成されますので、間違いというよりは中村先生の報告以降、より詳しく報告されるようになったという訳です。

もっとも変成作用を受けていない純粋な蛇紋岩は、針状結晶が粗くて脆い石質ですので、石器には向きません。ですから蛇紋岩類という大雑把な表現をするようになったのです。

各地の考古学博物館を見学していると、糸魚川産蛇紋岩と記入された石器に出くわすことがあります。

こんな時はちょっとしたお国自慢で「ムフフ」と鼻が膨らむわたし。

そして素晴らしくよく切れる糸魚川産の石器を使った原始人が、会心の笑みを浮かべてこう叫ぶ姿を想像するのです。

「糸魚川は原始人のミネラル・パラダイスやぁ!」

 

・石皿

ドングリクッキーは美味いか不味いか分からない素朴な味

縄文遺跡からは、石皿と磨石(スリイシ)が大量に出土します。

主に砂岩や安山岩製です。

これらの道具類は、当時の主食であったドングリなどの賢果類の磨り潰し作業に必要だったと推測されています。

現代日本の道具でいうと、石臼に相当する道具です。

どんぐりクッキー作り

写真は縄文料理教室でドングリを潰す小学生です。

 

石皿と磨石は、現在でもインドでスパイスを磨り潰す道具として、どこの家にも常備されています。

インド式石皿は平らに加工されて、磨石は転がしてスパイスを磨り潰しやすいようにテーパーになった円筒形に加工されています。

スパイス用とは別に写真のような薬用もあって、紡錘形の石皿とすりこ木型をしているという違いがあります。

インドの石皿

こっちは寺院の門前町で土産物として売られていて、宗教的な意味でヨニ(女陰)とリンガム(男根)を象徴しているようです。

東南アジアではトウガラシやパパイヤなどを叩き潰す道具として、壺型の石臼と鉄製の潰し棒が使用されています。

 

実際に石皿と磨石でドングリを潰してみますと、粉末状にするには相当な時間がかかります。

小麦粉のような粉末にするというのは現代人の固定観念であって、縄文時代には粗いフレーク状態のドングリも混じって使っていたのかもしれません。

どんぐりクッキー

この写真はフレーク状ドングリ混じりのクッキーです。

つなぎに山芋と少しの鶏卵、味付けにクルミとクリ、日本ミツバチの蜜とエゴマを使いました。

ドングリクッキーも何度か作りましたが、青臭さが若干残る木の実そのものの味で、蜂蜜やゴマ、クルミなどを入れないと美味いのか不味いのかよく分からない味でした。

 

体験会などでは時間の節約のため、ドングリ粉は新大久保にある朝鮮料理の食材店で通販購入したドングリ粉を使用しています。

(韓国広場http://www.ehiroba.jp/

 

そんな場合は石皿で、ドングリ粉に混ぜるクルミやクリ、ゴマを潰してもらっています。

市販されている木の実ミックスを混ぜると風味も増します。

賢果類はクッキーだけではなく、雑穀と混ぜたりして雑炊にして食べていたのかもしれません。

 

・縄文の絵具

縄文の絵具は「泥絵具」

石皿の用途は賢果類の擂り潰しだけとは限りません。

例えば土を砕いて顔料を作る道具。

縄文の絵具は、乾燥させた土や木炭を細かく砕いて作った泥絵具と推測されています。

草木染もあったかもしれませんが、染色しやすい木綿や絹はずっと後の時代ですし、痕跡が残りにくいので縄文人が使っていたかは不明です。

薬用になるキハダはまっ黄色に染まりますから、虫除けや呪いなどで肌に塗ったかも知れません。

また石や岩を砕いて作る「岩絵具」は、作る手間暇が大変なので、縄文時代には無かったと考えられています。

 

泥絵具の作り方

泥をそのまま絵具にすることはできますが、泥には小石や有機物が混じっていたりしていますし、よほど微粒子の泥でもなければ、伸びが悪いので塗り難く、ムラになるのが普通です。

ですから質の良い絵具にするためには精製度を上げる必要があります。

 

精製度を上げるには、泥を水に溶かして浮いたゴミと上澄みを捨て、その後に乾燥させて砕いてから取り切れなかった有機物を取り除くことが最初です。

石皿で粉末状に加工すれば初歩的な「顔料」の出来上がりです。

この工程ではまだ砂分が含まれていますので、ザラザラして伸びの悪い絵具しか作れません。

 

もっと質の良い顔料を作る場合には、砂を取り除く必要があります。

砂分を取り除くには、泥を水に溶かした段階で底に沈殿した砂混じりの泥と上澄みを取り除き、中間部を集める工程を数度繰り返して顔料分濃度を高めていきます。

そうして集めた溶液を天日乾燥させて精製度を上げる工程を「水干」・・・ミズヒ・・・と言います。

 

フルイを使えばこの工程は短縮できますので、私の場合は百均で購入したザル(フルイ目2o弱)とお菓子用の粉フルイ(フルイ目1oくらい)で最初に粗い砂や有機物を取り除いています。

それでも細かい砂分が残る場合には目の細かいフルイにかけますが、細かい目のフルイは高価ですので友人の日本画家は古くなったパンストをフルイに利用しているのだそうです。

 

顔料は石皿で擂り潰して微粉末にするほど、彩度や明度があがり、伸びもよくなっていきます。

ですから元の素材は同じでも、精製度合によって色合いが微妙に変化していくのです。

ここが面白いところ。

 

縄文の色・・・赤と黒

縄文人時代の「色」が確認されているのは、朱漆や黒漆の顔料としてベンガラの赤茶色と木炭の黒の2色があります。

「縄文時間」の題字は、木炭で作った黒とベンガラの赤で自作した絵具で手書きました。

 

2012年に「縄文の学校」という体験会をした時に、事前準備で糸魚川市内で絵具材料を探して歩きましたが、山や海、田んぼや畑を走り回って集めた顔料素材がなんと11色!

顔料

白はヒスイを砕いて作りました。

黒は木炭の他に砂鉄ブラックも作りました。

赤系は、早川レッド・根知レッド・鬼伏レッド・須沢レッドの4色。

色の名前は採集地の地名からのネーミングです。

大変だったけど、愉しい思い出です。

 

縄文人は絵具を何に使ったのか?・・・フェイスペインティングは戦士の装い

アニメ『もののけ姫』の主人公サンが頬に逆三角形の赤い色を塗っていました。

恐らくベンガラでしょう。

最後のほうでは怒り狂った猪達が、突撃前に泥で体中に渦巻模様を塗りたくる場面もありました。

いわゆるフェイスペインティングとボディーペインティングです。

 

縄文〜古墳時代の土偶や埴輪には、目の下に2本線の文様が線刻されているものが多いのですが、フェイスペインティングを表現してるのか、入れ墨を表現しているのかは不明です。

古墳時代の巫女と思われる埴輪には赤く彩色されているので、土偶もフェイスペインティングを表現していたのではないでしょうか。

黒と赤の縄文式絵具を作ってフェイスペインティングをしてみましたが、鏡を見てギョッとしました。

平和ボケした自分の顔が、精悍な戦士の顔に豹変していたのです。

背筋や首筋がキリッと伸びた感じがしました。

縄文人も戦いや祭り、冠婚葬祭の儀式などにフェイスペインティングやボディーペインティングしていたのかもしれません。

フェイスペインティング

この写真はお盆休みで帰省した同級生と飲んだ時にフェイスペインティングした時のもの。

酔っ払い相手では戦士の装い、という訳にはいきませんね・・・。

 

黒い顔料の作り方

黒は木炭を石皿で擂り潰しますが、どんな木炭でも良いという訳ではありません。

焚火の後の炭を潰して作ったことがありますが、伸びが悪かったり、発色が悪かったりします。

絵具に詳しい古代技術研究家の関根秀樹先生に相談したら、最上の黒は山ブドウの蔓や藤蔓で作った木炭とのことで、試したら確かに伸びがよい漆黒の絵具が作れました。

 

赤い顔料の作り方

赤は血や太陽、炎の象徴色ですから古今東西、生命力を表現する色として使われてきました。

外国人に京都の観光案内をしたことがありますが、どうして神社の鳥居は赤いのか?と聞かれてドギマギしてしまいました。

日本人なら鳥居が赤いことは当たり前過ぎてなんの疑問も持ちませんが、西洋人にとって「ワビ・サビ」の日本文化に何で派手な赤が使われているのか疑問なのでしょう。

シドロモドロの拙い英語で、赤はバイオカラーだから魔除けなんだよと説明をしたら簡単に納得してもらたので一安心した経験があります。

ベンガラは酸化第二鉄を含む土を砕いたり、時には焼いて酸化させたりして作ります。

 

絵具の作り方・・・各種絵具の違いは、メディームの違いだけで顔料は同じ

ここまでで黒や赤の顔料の作り方を説明してきましたが、顔料だけでは粉のままなので用途が限られてしまいます。

絵を描いたりできる絵具にするには、顔料にメディームを混ぜる必要があります。

メディームとは、顔料を固着させる媒介の溶材のことです。

意外にも各種の絵具の違いとは、メディームの違いだけで顔料は同じです。

以下に各種絵具の作り方を説明します。

 

1.フェイスペインティング用絵具

顔料を水に溶かせば完了です。

伸びの悪い顔料の場合には、溶かしてから時間をおけば塗やすくなる場合もあります。

ただし、そのままではフェイスペインティングのように一時的な使用であれば問題ないのですが、乾くと剥離してきます。

 

2.水性絵具・・・メディームはアラビアゴム

市販されている水性絵具は、顔料をアラビアゴムという天然の水溶性ゴムで練ってあるので、簡単には色落ちしません。

簡易に水性絵具を作りたい時には、工作用の糊で代用できます。

 

3.日本画の絵の具・・・メディームは膠

顔料に膠で作った糊を混ぜ合わせれば日本画の絵の具です。(通称は岩絵の具)

木や石に絵を描きたい時には、この絵具で描けば簡単には色落ちしません。

膠の代用品は、横浜の画材店「絵具屋 三吉」http://www.sankichi.com/で通販している「アクアグルー」や「アートグルー」を試してみてください。

顔料と混ぜるだけですから膠より簡単で、長持ちするという三吉自慢のオリジナルメディームです。

 

4. 油絵具・・・メディームは油

画材道具屋さんで売っている、ペインティングオイルを混ぜれば完成。

小さな画材屋さんでも多種類の油が置いてあるはず。

好みの油を混ぜればいいのですが、油の性質を知らずに使用すると経年劣化や彩度が落ちたりという失敗もありますので、初心者は間違いのないペインティングオイルをお勧めします。

ペインティングオイルは、あらかじめ各種の油を適度にブレンドしてあるので面倒がありません。

因みに私は高校生の時に美術部でした。

今でも油絵具の匂いを嗅ぐと青春が蘇ります。

 


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